No.075 天海/沖至&レイモン・ボニ
01 天海 18'14''
[ten-kai]
02 ストップ・シューティング・・・・・シェア 12'18''
[Yehudi Menuhin was right: stop shooting.....share]
03 織姫 10'02''
[orihime]
04 燃島 8'04''
[moejima]
05 ブラザー・ビッグ・ジョー・ウィリアムス 9'04''
[brother Big Joe Williams]
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ライナーノート
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本作を聴いて驚くのは、曲の途中にもかかわらず、ときにまったく「無音」になる箇所がある、ということだ。有線、i-pod、着メロ、カラオケ……とどこを見回しても音、音、音の奔流に飲み込まれそうな今の世の中、音楽CDを聴いていて「静寂を聴く」という経験はめったにあるものではない。
いつのまにかギターという楽器は、「怪物」のようになってしまった。もともと木の胴に数本の弦を張っただけの、三味線や琴、バラライカやウクレレといった、世界中にある撥弦楽器の一種だったギターが、電気という味方を得て、ソリッドボディとスチール弦、ピックアップにエフェクターにアンプ……という姿に変貌した。コンセントから無限の動力を供給されながら、空間が歪まんばかりの大音量を轟かせるエレクトリックギターは、バンドとかグループ表現とかいったものからもはみ出してしまうほどの力を持ってしまったのだ。
だから、トランペットのような金管楽器にとって、ギターとのデュエットは、そびえ立つ無尽蔵の巨大なエネルギー塊と対峙するようなものだ。ラッパは単音しか出ないし、息の量という制約があるし、音量もおのずと限界がある。それに比べて、ギターは、一度に複数の音が出せるし、リズムもハーモニーも自在である。肺活量とかは関係ないから、指が疲れるまで永遠にフレーズを続けられる。音量もいくらでも大きくなるし、エフェクター類を使用すれば、どんな音色でも出せる。だから、ギターは自分のそういった長所が欠点にならないようにしなければならないし、トランペットはギターの底なしのエネルギーに負けてはならない。
ここにおさめられた五曲(実際は一続きの即興演奏であり、曲名は便宜上つけられたものだそうだ)は、楽器を知り尽くした奏者、それも自分の楽器に対して独自の視点を貫いてきたベテラン奏者による、究極のデュエットである。沖至もレイモン・ボニも、その活動の歴史や演奏姿勢はまったく独特で、そんな個性のかたまりのような奏者が共演した場合、すばらしくうまく行くか、最低の出来になるかどちらかだと思われるが、このアルバムでは、たがいに理解しあい、挑発しあい、踏み込みあって、最高の結果となった。空間を日本刀で切り裂いていくようなトランペットに対してギターは饒舌に対応するが、ある瞬間、ギターは驚くほど寡黙に転じ、トランペットが雄弁に「場」を支配する。圧倒的なスピード感とともに掻き鳴らされるギターの膨大なエネルギーに比して、トランペットの単音によるエネルギーもじつは膨大であることが、この赤裸々なデュエットを聴けば嫌でも理解させられよう。レイモン・ボニのギターには、撥弦楽器としての本来の状態に戻ったようなプリミティヴで剥きだしの心地よさがあり、沖至の笛やトランペットには牛の大腿骨に呼気を吹きこんでいたころの原始の響きとスマートなモダンさが同居している。最近、アルバム上ではコンポジションを前面に押し出したグループエクスプレッションが多かった沖至だが、ライヴの場では純粋即興の交歓を多くこなしており、レイモン・ボニという最高の相手を得た本作において、そういったものが結実したのだろう。
このアルバムの試聴盤を私は、ある田舎の国道横の歩道を歩きながら聴いていたが、最大に音量レベルを上げていたにもかかわらず、途切れなく走る乗用車やトラックのせいで、ときにはまったく演奏が聞こえない。それほど世の中は噪音に満ちている、ということもできるが、私はそれだけ本作に「静か」な部分が多いのだろう、と思って、心うれしくなった。
田中啓文(小説家)
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制作|清水紹音 SHIMIZU Joh-on(Ohrai records)
録音・マスタリング|ジャン・M フッサ J.M Foussa
書|安保紹隆 ABO Joryu
イラストレーション|鳥:石原雄太 ISHIHARA Yuta モーの牛,キリン:西本尚美 NISHIMOTO Naomi
写真|デイビッド David
デザイン|田邊純子 TANABE Junko
◆Special Thanks to
ベルトラン・ルノディノー Bertrand Renaudineau, 佐藤 真 SATO Makoto,
仲野麻紀 NAKANO Maki, 大島櫻子 OSHIMA Sakurako,
小林以知子 KOBAYASHI Ichiko, 垂井光恵 TARUI Mitsue,
すずかけ絵画クラブ SUZUKAKE art club, 自然館 shizenkan